夏を忘れない

 

昔ある作家が、日本人を“九十日の民”と名付けたことがあります。春夏秋冬の変化の中で、約九十日ごとに目まぐるしく生活の仕方を変えていくことからの発想です。本当に日本人は九十日が巡るごとに季節について語り合い、季節を謳歌しています。変化に富んだ九十日は、今年の春にはまるで去年の春とは違ったような味わいを感じさせてくれたり、毎年悩まされている夏の蒸し暑さでも、まるで初めて体験するかのような新鮮さを運んでくれたりします。

「梅雨ってこんなにジメジメするものだったっけ?」
「こんな蒸し暑さは初めて!」
なんてことを毎年つぶやいている人は多いのではないでしょうか。九十日ごとの季節の変化を毎回新鮮に楽しんでいる反面、わたしたちは一年前のことをすっかり忘れてしまっているのではないでしょうか。現に、夏になると毎年熱中症のニュースをよく聞くようになり、毎年毎年熱中症についての注意喚起が発信されています。どうやら九十日の民の心の中に、どんな酷暑でも過ぎ去ってしまいさえすれば良いのだ、という発想があることを否定できないのではないでしょうか。それは、厳しい自然と上手く付き合うための工夫を毎年積み上げ、成熟したライフスタイルを作り上げていくことを、時として阻むこともあるかもしれません。

その場しのぎ的に空調のスイッチを入れ、ただ過ぎ去るのを待つのではなく、去年の夏から来年の夏へとつながる一本の流れの中で、今年の夏に真剣に取り組みましょう。

“2013年夏を忘れない”。
これが、来年、再来年の夏の快適さを決定づけるカギとなるのではないでしょうか!

PS dialogue 2013.8

 

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