誠実、簡素、健全、自由

 

あなたの部屋にひとつものを増やそう、というとき、どんな条件で選びますか?

誠実、簡素、健全、自由なもの。

と、答えた人がいます。
大正から昭和にかけて活躍した陶芸家、河井寛次郎のことばです。

1920年ごろ、日本では民芸運動という芸術のムーブメントが興りました。芸術家が作った美しい美術品ではなく、名もなき市井の職人が、おなじく市井のひとびとのためにつくった日用品のなかに、美しさを見出そう、という試みでした。このあたらしい美しさは「用の美」と名づけられました。日常のなかで実用的にもちいられるものの中に宿る美しさのことです。河井寛次郎も、この運動に参加したひとりでした。自分の作品を芸術作品にしてしまうのではなく、あくまで毎日使ううつわとして扱ってほしいと、作ったものには名前をしるしませんでした。使い込む中で、そこに「用の美」が発見されることを願っていたのです。

誠実、簡素、健全、自由。これは、あたらしくものを買う時に、助言を求めた娘さんに河井寛次郎がこたえたものです。誠実で、簡素で、健全で、自由なもの。この条件を備えたものはきっと、あなたの生活の中にすぐにとけこみ、あなたの生活に長い間寄り添い、少し壊れても修理したり手入れしたりすることで、さらにあなたの生活を豊かにし、新しい生活の可能性を生み出していくことでしょう。そのとき、あなたは気付くのではないでしょうか。そこに、「用の美」がいつしか宿っていることに。

あなたのまわりに誠実で、簡素で、健全で、自由なものはありますか?

PS dialogue.2013.8

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