蓄熱の知恵

熊本県玉名市の小天(おあま)という土地は、柑橘類の産地です。有明海を望むなだらかな山の斜面に、柑橘類の段々畑が見えます。夏目漱石が熊本の五校の英語教師時代に訪れた小天、そこでの滞在が後に小説『草枕』を生むことになりました。漱石は小天をたいそう気に入ったそうです。

1月末に、私は小天へ行きました。無農薬栽培で柑橘類の農家を営み、また農家レストランを開いている家があります。そこで地元の食材を素朴に使った料理をいただきました。新鮮な刺身、野菜料理の数々、そしていろいろな種類のみかん。この日は珍しく3月の陽気で、暖かな日差しを感じながら、とても豊かな時間を過ごしました。帰りがけにレストランの奥さんが、庭のレモン、シークサワーサー、ゆずようかん、そして何とかという大きなみかんをハサミでチョキチョキもいで持たせてくださいました。今まで見たこともない、しかもたった今目の前で取ってくださったお土産に感激しました。

農家レストランの奥さんによると、みかんの段々畑の垂直面は石垣になっています。この石垣は、太陽の熱を蓄え、それによってみかんがすくすく育つのだそうです。自然の力を利用した素晴らしい知恵だと、これもまた感激しました。温暖な熊本にも小さな冬はあります。路地でみかん栽培を可能にしたのは、石の蓄熱の力だったのです。ここでは沖縄のシークワーサーも路地栽培できるのがその証拠です。

PS dialogue 2014.2

 

1月2月に春がある熊本よりお届けしました。

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