東京の五月

五月です。

五月って季節に分類すると何でしょう。春の終わり?夏の始まり?そういえば、晩春という言い方はあまり耳にしませんね。このなんとなく物悲しくも名残惜しいような「晩」という言葉は、来る夏への期待を感じさせる春の終わりには似合わないのかもしれません。では、初夏でしょうか。とはいえ、五月の始まりに、温度は高いけれど湿度はまだまだ低い。降り注ぐ日射は夏の気配を思わせるけれど、風はからっとひんやりと肌を撫でていく。初夏とも言い切れない。

五月は五月、という季節ではないでしょうか。木々は花を終えて、柔らかくみずみずしく輝く若い葉を茂らせる。ときおり、驚かせるように吹く風は、明るく、まだ軽やかな太陽の光を至るところにまき散らしていく。昔の人は、こんな五月という季節の風を「薫風」といいました。若い木々の香りをわたしたちに運んでくる風。「風薫る」ともいいます。

ちなみに、このひと月ほど前、四月の季語は、「風光る」です。暗かった冬に、光を吹き込むような春の風。そして、五月には若草色の薫風が吹いて、そして、いよいよ初夏がやってきます。初夏の風は、「青嵐」。あおあらしと読みます。薫風よりやや強い風で、青々鮮やかに茂る麦穂、早苗を吹きわたります。

もちろん、これらの三つの風を数値的などで定義づけることはできないでしょう。科学的に言えば、風は光りませんし、薫りませんし、青くもないはずです。だけれど、科学が定義するような大気の流れとしての風、風速と風向で説明されるような無色透明の風はいったいどこに吹いているのでしょうか。昔の人のことばは、風はいつも季節のなかで吹いているということを教えてくれます。木々が芽吹く香り高く立つ五月の季節の中で風は吹いているのです。季節の中で吹く風は、光り、薫るのです。

五月。薫る風が吹くこの季節に、あなたは何をしますか。五月にしかできないこと、五月だからやりたいことはなんですか。

 

PS dialogue 2014.5

 

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