夏の読書


読書の秋と言われていますが、夏にも読書はできます。近頃思うことですが、夏は暑いので思索活動には向いていない、ということではなく、夏には夏の読書スタイルがあると思えるのです。考えてみれば、冬に図書館に入った時、心から生き返ったような心持ちにはなりません。かえって、部屋の中で暖められ過ぎた頭を冷やしに外へ出たとき、冷たい風に吹かれながら、身の内がすっと引き締まる思いがするものです。

夏はその反対で、暑い戸外から涼しい図書館に入ったとき、汗がひいてほっとして、気持ちよく本を読もうという気になるのではないでしょうか。または、避暑に行った山で、風の吹き抜けるテラスで本を広げるひととき、森の中を歩きながら、読んだ本の一節を反芻するひとときなど、夏の読書は五感で感じる読書です。考えてみれば、夏にただただ家に引きこもってしまっては、勿体ないかもしれません。

パリにいた時、夏の暑い時でも、人々は家にこもらず、外に出ていることに驚かされました。パリの7月、8月はバカンスシーズンで、パリに残っているのは外国人か観光客、などの笑い話もあるくらいですが、皆が一斉にバカンスを取れるわけではないので、普通に日常生活を送っている人々もいるのです。パリの一般家庭には冷房がないことが多いので、(だからこそ家にいても暑いからと外に出るのかもしれませんが)夏の暑さをどのようにしのぐかというと、図書館や美術館、レストランやカフェ、プールに行ったり、公園の木陰、噴水の周りにあるベンチや、川岸の日陰で涼んだり、というようになるわけです。そのような場所で、本を読んでいる人の多さに気づかされました。

また、夏の間、「パリプラージュ(パリの砂浜)」といって、セーヌ川岸に砂を運び入れ、即席のビーチにする催しが行われています。河川敷といえども砂の上にパラソルが立ち、デッキチェアに寝そべりながら、パリにいながらにしてバカンス気分を味わおうという人々に人気のスポットです。ここでも、沢山本を読んでいる姿が見られました。隣に冷たい飲み物と果物を置いて、ページを繰りながら、時折日の光の変化を感じる、そんな過ごし方も、豊かな夏の風景です。

暑い季節には、心と身体は好奇心にあふれています。この時期に本を読むと、頭だけではなく、手足から皮膚から、浸み込むような理解の仕方をするような気さえします。そして、本の中の出来事が、日常にすぐさま影響を与えるような、即効性を持つもののように感じます。

夏こそ花火にスイカ。だけではなく、夏にこそ読書。秋の読書が沈思を促すものなら、夏の読書は心の解放であり、知への貪欲な挑戦でもあります。是非、腰を落ち着けて本を読んでみませんか。「夏の読書」は、夏を豊かにする一つの方法になりうると思います。

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