スイス哲学1

スイスはとても小さな国です。昔から、周りを大国に囲まれた小さい国です。しかしだからこそ、とても知に溢れた強い国なのです。このシリーズでは、スイスで見つけた知恵や工夫を、スイス哲学と命名して紹介していきます。

 

さて、スイス最大の都市チューリヒの中央駅には、一見すると無駄ではないかと感じる、広大な空っぽのアトリウム空間があります。そのような空間が“ある”というよりむしろ、その空っぽの空間こそチューリヒ駅そのものなのです。

空っぽの空間が目立つのは駅だけではありません。チューリヒの歴史ある大学、チューリヒ大学とチューリヒ工科大学でも、建物の中心を占めているのは、広いアトリウム空間です。

このような空間をそのまま放っておくのは勿体無いのでは?と感じるのは、東京駅のような空間を精一杯使い切る空間構成に慣れてしまっているからでしょうか。

しかし、この疑問は一夜にして吹き飛ぶのです。駅のアトリウムは翌日にはメッセの会場へ、チューリヒ大学のアトリウムは企業説明会の会場へ、チューリヒ工科大学のアトリウムは学生の作品の展示場へと変身していました。確かにこのような空間が存在すれば、仮設の施設を建てる労力も必要なく、いつでも様々なイベントが開催できます。しかも最も人が行き交う最高の場所で。大屋根の空間利用は、工夫しだいで、その可能性は無限大にまで広がります。

さらに、このような空間は、時代も超越します。時代に合わせて、市場になったり馬小屋になったり、展示場になったり駐車場になったり、またコンサートホールや劇場にだってなれます。空間そのものを変えることなく、時代にふさわしい用途が与えられるのです。

使い捨てではなく、広くて頑丈でどっしりとして、かつシンプルな空間構想がここにはあります。一見すると空間の無駄遣いにも見えてしまいがちですが、このような何年にも渡って多目的に使える空間を作ることは、むしろ”省エネ“なのではないでしょうか。

PS dialogue 2013.04

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